スタンディングデスクを買った。最初の数日は調子がよかった。それが二週間もすると、夕方に腰の下のほうがずしんと重くなって、気づけばまた一日じゅう座っている。
「座りすぎは体に悪い」「こまめに立ちましょう」までは、もう十分に知られています。ところが、その先を誰も決めてくれません。何分座って、何分立てばいいのか。ここが空白のまま道具だけ増えると、立ちすぎて腰を痛めるか、面倒になってやめるかのどちらかに落ち着きます。
知られていないのは「何分座って、何分立つか」
多くの情報は「30分に一度は立ちましょう」で止まります。立ったあと何分立つのかは各自の判断にゆだねられていて、判断にゆだねられたものは、忙しい日から順に消えていきます。
前提として、1日の合計座位時間を減らすこと自体は大事な話で、これは座りっぱなしと認知症リスクの記事で扱いました。ただし、合計座位時間が効いてくるのは、年単位で積み上がっていく種類のリスクです。夕方の腰の重さはもっと短い時間軸の話で、こちらには切り替え方のほうが効いてきます。合計を減らすのが土台、そのうえに「どう切り替えるか」が乗る、という関係です。
30分座って15分立つ:自分で決めるより、決めてしまったほうが続いた
デスクワーカーを3か月追いかけた比較で、ふたつのやり方が比べられました。ひとつは30分座って、15分立つをひたすら繰り返す、決め打ちの配分。もうひとつは、その日の予定や体調に合わせて自分で立つタイミングを決めるやり方です。
結果がよかったのは、決め打ちのほうでした。対象はもともと腰に痛みのあるデスクワーカーで、平均すると30代後半、大半が女性。この記事を読んでいる方と、そう遠くない層です。
期待の置きどころは、先に決めておいてください。3か月で、いちばん痛かったときの痛みが10段階で1点強ぶん。腰痛が消えるという話ではなく、重い日の底が少し上がる、くらいの変化です。比べた相手も、何もしない人ではなく「自分で決めるやり方」です。それでも、道具を買い足さずに得られる差としては小さくありません。
そして、決め打ちのほうがよく守られていました。自分で調整する方式は柔軟で、一見よさそうに見えます。その柔軟さが、そのまま「今日はやめておこう」の余地になります。差を説明するとしたら、まずはここでしょう。
守るのは2つです。座り続けるのは30分まで。立つのは15分。崩れそうな日は、前者だけでも守ってください。この2つを決めてしまえば、あとは自動で回ります。30分と15分で、ひと回りは45分。何時から始めるかも、その日の体調も、考えなくて済みます。
9時に座り始めた日なら、午前はこうなります。
- 9:00 座る → 9:30 立つ
- 9:45 座る → 10:15 立つ
- 10:30 座る → 11:00 立つ
時刻を覚える必要はありません。鳴ったら切り替える、それだけです。
効いていたのは、座る時間を削ったことではない
この比較の芯は、ここからです。自分で調整した側のほうが、座っている時間そのものはよく減っていました。「座りすぎを減らす」という物差しで見れば、こちらのほうが優秀です。それでも、痛みが軽くなった幅は決め打ちのほうが上でした。
つまり、差を生んだのは座位の総量ではなさそうです。総量ならむしろ自分流のほうが減らしていたのに、痛みの改善はそちらが下だったからです。いちばんありそうなのは、決まった間隔で姿勢が切り替わり続けたことのほう。同じ「1日8時間座る」でも、ぶっ通しなのか30分ごとに区切られているのかで、腰への意味が違ってきます。
合計を減らすのは体全体にとっての土台で、腰にはそれとは別に切り替えの回数という軸がありそうです。両方を同時に追うより、まず「30分で一度切る」を固定する、くらいの優先順位で十分です。
長く座ったままだと、おしりの深い部分が押しつぶされた状態で固まりやすくなります(デスクワークのおしりコリが招くリスク)。切り替えは、この「固まる時間」を短く刻む操作だと考えてください。
立ちっぱなしに寄せない理由:「連続」と「1日の合計」は別の話
では、いっそずっと立てばいいのか。ここは「一度に何分立つか」と「1日で合計どれだけ立つか」を分けて考えます。心配の中身が違います。
まず、連続のほう。2時間立ちっぱなしで作業してもらった検証では、もともと腰痛のなかった人でも、およそ4割に腰の痛みが出ました。ただしこの痛みは、座れば10〜15分で引いています。15分で切り上げていれば、この2時間にはまるで届きません。立つのを15分で止めるのは、遠慮ではなく設計です。
もうひとつ、合計のほう。立位時間と健康を追いかけた調査では、立つ時間を増やしても心臓や血管の病気のリスクは下がらず、立ちっぱなしが長い人ほど立ちくらみや脚の静脈のトラブルが増えていました。対象は60歳前後なので、30〜40代がそのまま当てはめる話ではありません。持ち帰るのは、立つ時間を増やすこと自体を目的にしないという一点です。
なお、30分と15分を8時間続けると、立っている合計は2時間半前後になります。いま出てきた合計の話と数字が近いので気になるところですが、この配分そのものを3か月続けた比較で、腰の状態はむしろ改善しています。それでも気になる方は、午前か午後のどちらかだけで回すところから始めてください。
立つと腰が反りやすい方は、立ち姿勢のクセを先に見たほうが早いこともあります(反り腰のチェック方法と改善ストレッチ)。
机の高さを変えられない場所で、どう成立させるか
この配分がいちばん崩れるのは、在宅の日です。オフィスに昇降デスクがあっても、自宅の机は高さが変えられない。ここで「立って作業する」を条件にしてしまうと、在宅の日だけ丸ごと抜け落ちます。
ここで机を買う必要はありません。効いていそうなのが切り替えの回数である以上、立って作業することにこだわらなくていいからです。
- 15分まるごと立って働かなくてよい。30分たったら立ち上がって部屋を一周する、それだけでも切り替えは起きます
- キッチンカウンターや棚に、ノートPCを載せられる高さを探す。本を数冊積むと高さが合うこともあります
- 立ったままできる作業を仕分けておく。資料を読む、音声だけの会議を聞く。細かい入力は座ってやる
オフィスには、また別の壁があります。立つと目立つ、立てる場所がない、席を外してばかりだと見られる。ここは、立つ理由のほうを用意しておくと回りやすくなります。
- 印刷物を取りに行く、給湯室まで歩く、といった用事を30分おきに割り振っておく
- 音声だけの会議や、聞き役でいい会議は、後ろのほうで立ったまま参加する
- 電話とオンライン会議は立って受ける、と先に決めておく
大事なのは、30分で一度切ること。中身は「立って作業」でも「立ち上がって歩く」でも構いません。時計ではなく生活の切れ目を合図にしたい方は、平日5分のセルフケアを生活動線に埋め込む方法が参考になります。
切り替えが続かないときに見直すこと
配分そのものより、立ち方のほうに原因があることもあります。立つのがつらい状態で回数だけ増やすのは、やめてしまう近道です。
足元を変える。硬い床にまっすぐ立っていると、体はほとんど動かないまま固まります。クッション性のあるマットを一枚敷くと、その上では足元が小さく動き続けます。立ちっぱなしで腰が痛くなるタイプの人ほど、この一枚で楽になったという報告があります。
片足の置き場をつくる。低い台に片足を乗せ、数分おきに左右を入れ替えます。これで痛みが減るとまでは確かめられていませんが、じっと立ち続けないための仕掛けにはなります。狙いはマットと同じで、動きを止めないことです。
天板の高さを合わせる。肘が軽く曲がるくらいが目安です。高すぎると肩がすくみ、低すぎると背中が丸まります。立っているのに座っているときと同じ疲れ方をするなら、ここを疑ってみてください。
痛みが出たら、我慢せず座る。立ち続けて出た腰の痛みは、座れば10〜15分で引くことが多いものです。座ってリセットし、次の回でまた立てば十分です。ただし、座っても引かない、じっとしていても痛む、脚にしびれがある。このどれかに当てはまるなら、配分の工夫より先に整形外科で診てもらってください。
感じ方には個人差があります。15分立つのがきついなら、10分から始めて構いません。守るのは「30分で一度切る」のほうです。立ち上がったついでに何をするかは、午後の集中力を保つマイクロブレークにまとめてあります。
まとめ:配分は「自分に合わせて」より「決めてしまう」
- 30分座って15分立つ。自分の裁量で決めるより、この決め打ちのほうが守れて、痛みの出方もよかった
- 座る時間を削った量では説明がつかなかった。効いていそうなのは切り替えの回数のほう
- 連続2時間立つと、4割ほどの人に腰の痛みが出る。座れば10〜15分で引くので、痛みが出たら素直に座る
- 立つ時間を増やすこと自体は目的にしない
- 机がなければ、「立って作業」を「立ち上がって歩く」に置き換えてよい
自分に合わせて柔軟に、というやり方は、やさしそうに見えて、実は毎回自分と交渉することになります。決めてしまえば交渉はいりません。タイマーは2段構えです。座り始めに30分、立ったら15分。繰り返し設定できるインターバルタイマーのアプリなら、一度セットすればあとは鳴り続けます。今日の午後から始められます。
よくある質問
Q. 30分ごとにタイマーを鳴らすと、集中が切れてしまいませんか?
深く集中している最中に中断されると、戻るまでに時間がかかるのは確かです。タイマーを「必ず立つ合図」ではなく「次のキリで立つ合図」として扱ってみてください。鳴ってから数分以内に区切りをつけて立つ、というゆるさを持たせても、リズムはほぼ保てます。
Q. 会議が続く日はどうすればいいですか?
音声だけの会議や、自分が聞き役の会議は、立ったまま参加する候補です。それも難しい日は、会議と会議の切れ目で必ず立ち上がって歩く、と決めておけば十分です。30分きっちりでなくても、切り替えの回数が確保できていれば意味があります。
Q. オフィスで立って仕事をすると、目立ちませんか?
立ちっぱなしで作業しようとすると目立ちます。用事のほうを30分おきに割り振るのが現実的です。印刷物を取りに行く、給湯室に寄る、電話を立って受ける。席を立つ理由が先にあれば、周りから見えるのは「よく動く人」であって「立って仕事をする人」ではありません。
Q. 立つと逆に腰が痛くなります。やめたほうがいいですか?
立ち方を先に見直してみてください。硬い床に直立していないか、天板が高すぎて肩がすくんでいないか、片足に体重が乗り続けていないか。足元にマットを敷く、片足を低い台に乗せて左右を入れ替える。この2つは道具をほとんど増やさずに試せます。それでも痛むなら、立つ時間を10分に短くして回数のほうを保ちます。座っても引かない、じっとしていても痛む、脚にしびれがある場合は、整形外科で診てもらってください。
Q. どのくらい続けると変化がありますか?
先ほどの比較は3か月かけて見たものです。数日で判断できる話ではないので、まずは2〜3週間、リズムを崩さずに回してみてください。感じ方には個人差があります。日ごとの痛みの強弱ではなく、その2〜3週間をならしてどうかで見てください。
Q. スタンディングデスクは買ったほうがいいですか?
買わなくても始められます。効いていそうなのは立って作業することではなく、姿勢を切り替える回数のほうだからです。まずは今の机で2〜3週間回してみて、「立つ時間を増やしたい」と感じてから検討しても遅くありません。棚やカウンターで代用できるかを先に試すと、判断しやすくなります。
Q. 30分と15分は、きっちり守る必要がありますか?
分単位の正確さより、配分を毎日同じにすることのほうが大事です。25分と15分でも、30分と10分でも十分です。避けたいのは、日によって配分を変えることです。柔軟にしたぶんだけ実行されにくくなる、というのが今回の比較から見えていることです。
Q. 夕方の脚のむくみにも効きますか?
この記事で扱っているのは腰のほうです。脚のむくみは原因も対処も別筋になるので、むくみの原因と対策や着圧ソックスを履くタイミングを参照してください。ただし、30分ごとに立ち上がってふくらはぎを動かすこと自体は、どちらにとっても損になりません。
Q. もともと腰痛があるのですが、立ってもいいですか?
今回の比較は、もともと腰に痛みのあるデスクワーカーが対象でした。その前提で、決め打ちの配分のほうが結果がよかったという内容です。ただし、じっとしていても痛む、脚にしびれがある、夜間に痛みで目が覚めるといった場合は、配分の工夫より先に整形外科での確認をおすすめします。