「食事量を変えていないのにここ1〜2年で体重が増えた」という声を、施術でお会いする更年期前後の女性からよくお聞きします。「意志が弱いのかな」と自分を責めている方も少なくありませんが、これは意志の問題ではありません。
エストロゲン低下が体の代謝の仕組みを変え、更年期にはオキシトシンというホルモンも同時期に低下することが観察されており、これらの変化が重なることで脂肪燃焼が滞りやすくなると考えられています——今回はその関係を正直にお伝えします。
更年期に体重が増えるのは意志の問題ではありません
40代ごろから50代にかけて多くの女性が経験する体重増加。食事量を変えていないのに太りやすくなるこの変化は、エストロゲン(女性ホルモン)の低下がもたらす代謝の変化によるものです。
エストロゲンと脂肪の関係
エストロゲンは生殖ホルモンであると同時に、脂肪の「分布」を調整する重要な役割も担っています。エストロゲンが十分にある時期は脂肪が皮下に蓄積されやすいですが、低下すると内臓周辺へシフトしやすくなります。内臓脂肪は増えやすく落ちにくいという特徴があります。
さらに、エストロゲン低下は筋肉量の低下と基礎代謝の減少をもたらします。食事量を変えていなくても消費エネルギーが減るため、体重が増えやすくなるのです。これはホルモン環境の変化が引き起こす生理的な反応です。
「愛情ホルモン」オキシトシンに、意外な抗肥満作用があります
「オキシトシン」は、出産時や授乳時に多く分泌されることから「愛情ホルモン」とも呼ばれるホルモンです。スキンシップや信頼関係によって分泌が促されることでも知られています。
このオキシトシンが、近年の研究で脂肪代謝にも関わっている可能性が示されてきました。
注目を集めた研究の一つが、福島県立医科大学の前島由子准教授らが2017年に発表したものです。高脂肪食で太らせたマウスにオキシトシンを10日間投与したところ、体重が最大約9%減少しました(個体の状態によって差があります)。また、別の研究(PLOS ONE, 2011)では、オキシトシンが体内の脂肪を分解してエネルギーに変える働きに関与している可能性が示されています。
さらに、更年期に近い状態(卵巣摘出)のマウスを使った実験では、オキシトシンを投与することで増えた体脂肪や低下した骨密度が改善に向かったという報告もあります(Endocrinology, 2014)。
ただし、これらはすべて動物を使った実験です。人を対象に鼻から吸うタイプのオキシトシンを8週間投与した研究では、体重への有意な効果は確認されませんでした(NEJM Evidence, 2024)。現時点では「脂肪の代謝に関わる可能性がある」という研究段階のホルモンとして理解することが大切です。
「太っているほどオキシトシンが低い」という逆転の事実
更年期前後の女性109名を対象とした研究(Obesity Facts, 2018)では、体重が多い女性ほど、また閉経後の女性ほどオキシトシンの値が低い傾向があることが示されています。体重が増えるとオキシトシンが下がりやすく、オキシトシンが下がると脂肪が燃えにくくなる——という悪循環が生じている可能性があります。エストロゲンもオキシトシンも両方下がりやすい更年期は、「太りやすい条件が重なる時期」といえます。
マッサージや施術が、オキシトシンの分泌を促すことが研究で示されています
では、オキシトシンを増やすためにできることはあるのでしょうか。
注目されているアプローチのひとつが「体への触れ方」です。アメリカの大学病院(UCSD)が行った研究では、15分間の背中のマッサージを受けた人たちのオキシトシンが増加し、ストレスに反応して分泌されるホルモンが低下したことが95名の実験で確認されています。
ストレスホルモン(コルチゾール)は、高い状態が続くとお腹まわりに脂肪がつきやすくなることが知られています。施術によってストレスが和らぐことは、体重管理の面でも補助的な意味を持つ可能性があります。
なお、オキシトシンの精神面への効果(安心感・ストレス軽減など)については、別の記事で詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。
セラピストとして感じること
印象的だったのは、薬剤師のIさん(48歳)のケースです。「食事制限も激しい運動も続けられないのに体重だけ増えていく」とおっしゃっていた方ですが、月2回の施術を3ヶ月ほど続けるうちに「体が軽くなった」「むくみが減った」という変化を感じていただきました。
これをオキシトシンの効果と断言することはできません。自律神経のバランスが整ったことや、施術時間のストレス軽減など複合的な要因が考えられますが、タッチングが何らかの形でプラスに働いた可能性はあると感じています。
サロン施術以外でも、日常生活でオキシトシンを意識できます
オキシトシンを促す行動は、日常の中に取り入れることができます。ただし、あくまで食事・運動・睡眠という基本に添える補助的な要素です。
スキンシップ・人との温かい交流 家族やパートナーとのハグ、ペットとの触れ合いがオキシトシン分泌を促すとされています。
入浴でのリラックス ぬるめのお湯(38〜40度程度)にゆったりと浸かることは、体をリラックスモードへ切り替える効果が知られています。リラックスした状態がオキシトシンにも影響する可能性が動物実験で示唆されており、シャワーを湯船に切り替えるだけでも体が整う感覚を持つ方がいます(個人差があります)。
深呼吸 ゆったりした深呼吸は体をリラックスモードへ導き、オキシトシンが出やすい環境を整える助けになります。鼻から吸って、口からゆっくり吐く呼吸を意識してみてください。
感謝の言葉・気持ち 「ありがとう」と声に出す、日記に感謝を書くといった習慣も、オキシトシンに関わる可能性が研究で示唆されています。感謝を実践している人はストレスホルモンが低い傾向もあると報告されており、ストレスを和らげることを通じて体に間接的によい影響をもたらすかもしれません(あくまで可能性の段階です)。
これらは補助的な習慣として、食事・運動・睡眠という基本に添える形で取り入れてください。
まとめ
更年期の体重増加は、エストロゲン低下によって引き起こされる「代謝の変化」によるものです。そこにオキシトシンの低下が重なることで、脂肪燃焼がさらに滞りやすくなる可能性があります。
「オキシトシンを増やせば痩せる」と断言できる段階ではありませんが、タッチングや日常習慣でオキシトシン環境を整えながら、食事・運動・睡眠という基本を大切にすることが最も現実的なアプローチです。
「食事を変えていないのに太る」と感じている方は、意志の弱さではなく体の変化に対応できていないサインかもしれません。まずその変化を正しく理解することが、第一歩です。
当サロンでは、自律神経の調整とオキシトシン分泌を促す施術を組み合わせた更年期ケアをご提供しています。気になる方はお気軽にご相談ください。
よくある質問(Q&A)
Q: オキシトシンを増やすと本当に痩せますか?
動物実験では体重減少が確認されていますが、人への臨床試験では体重減少に統計的に有意な差は確認されていません(現時点では研究段階)。オキシトシンは代謝や脂肪燃焼に関わる可能性があるホルモンですが、「増やせば痩せる」と断言できる根拠はまだありません。食事・運動と組み合わせた補助的なアプローチとして捉えることをおすすめします。
Q: 更年期太りはいつ頃から始まりますか?
個人差がありますが、エストロゲンが低下し始める40代ごろから体重の変化を感じる方もいます。日本産科婦人科学会によると更年期は閉経(平均約50〜51歳)の前後各5年、計約10年間とされており、この時期が最も変化を感じやすいといわれています。ただし変化の現れ方には個人差が大きく、40代前半から症状が出る方もいれば、50代半ばまで目立った変化がない方もいます。
Q: マッサージはどのくらいの頻度で受けると効果的ですか?
研究では15分のマッサージでオキシトシンの有意な増加が確認されています。ただし、その効果がどのくらい持続するかは個人差があり、特定の頻度を支持する臨床研究は限られています。ご自身の体調や生活リズムに合わせて定期的に通われることを大切にしてください。日常の短時間セルフケアと組み合わせることも一つの選択肢です。
Q: オキシトシンのサプリメントや注射はありますか?
オキシトシンは市販のサプリメントとしては売られていません(医薬品に分類されるため)。注射剤はお産の促進などで医療機関が使用しており保険適用がありますが、鼻に吹きかけるスプレータイプは日本では正式に承認されておらず(一部の研究・治験でのみ使用)、ダイエット目的での一般使用はできません。スキンシップや施術、リラックスできる環境をつくることが、現実的なアプローチです。
Q: 食事や運動を変えずにオキシトシンだけで体重を減らすことはできますか?
現時点では難しいと考えられます。オキシトシンは脂肪代謝に関わる可能性が研究で示されていますが、食事制限や運動を完全に代替するものではありません。食事の質・量の見直し、無理のない範囲での身体活動の確保が体重管理の基本です。オキシトシンを促す習慣は、それらを補助する要素として位置付けてください。
Q: 更年期以外の年代でも同じ効果が期待できますか?
オキシトシンが代謝に関わる可能性は、更年期に限らず示唆されています。ただし、更年期にはエストロゲンの低下によって体がオキシトシンを受け取る感度も変わるため、この時期の女性には影響がより出やすい可能性があります。若い年代でも、ストレスや睡眠不足が続く状態ではオキシトシンが下がりやすく、代謝に影響することがあります。
Q: 施術を受ける前に医師に相談する必要はありますか?
持病がある方、現在薬を服用中の方、妊娠中または妊娠の可能性がある方は、事前にかかりつけの医師にご相談いただくことをおすすめします。リラクゼーション目的の施術は多くの方が受けられますが、更年期症状が強い場合は婦人科や更年期外来での診断・治療と組み合わせることで、より総合的なケアが可能です。