
「あれ、何をしに来たんだっけ?」「さっき聞いたばかりなのに思い出せない…」
最近、こんな経験が増えていませんか?更年期に差し掛かると、今まで当たり前にできていたことが急にできなくなる感覚に戸惑う女性は少なくありません。実は、東京医科歯科大学の調査によると、更年期外来を受診した女性の7割が週1回以上の物忘れを自覚しているのです。
でも安心してください。更年期の物忘れは、認知症とは全く違うメカニズムで起こる一時的な症状です。適切な対策を取ることで、変化が期待できます。
【体験談】Mさん(48歳・医療事務)の場合
症状
医療事務として働くMさんは、45歳を過ぎた頃から物忘れが気になり始めました。「患者さんの予約時間を忘れてダブルブッキングしてしまったり、薬の名前がすぐに出てこなくなったり。医療現場で働いているだけに、ミスは許されないというプレッシャーで余計に焦ってしまって」
特に困ったのは、複数の作業を同時にこなすことが難しくなったことでした。「電話を受けながらカルテを見て、次の患者さんの準備をする。今まで普通にできていたことが、途中で『あれ?何をしていたんだっけ?』となってしまうんです」
最初に試したこと
最初は脳トレアプリやメモ帳の活用を試みました。「でも、メモを取ったこと自体を忘れてしまったり、どこにメモしたかわからなくなったり。根本的な解決にはなりませんでした」
同僚の先輩看護師に相談したところ、「それ、更年期の症状かもしれないよ」と言われ、初めて更年期と物忘れの関係を知ったそうです。
転機となったのは
婦人科を受診し、更年期の診断を受けたMさん。医師から「エストロゲンの変動が脳の働きに影響している」という説明を受け、ホルモン補充療法と生活習慣の改善を始めました。
「特に効果を感じたのは、有酸素運動です。朝30分早く起きて、ウォーキングを始めました。最初は面倒でしたが、歩いた後は頭がスッキリして、仕事中の集中力が明らかに上がりました」
食事面では、青魚を週3回は食べるようにし、大豆製品も意識的に摂取。さらに、エクオールのサプリメントも医師と相談の上で始めました。
3ヶ月後の変化
「劇的に記憶力が戻ったわけではありませんが、仕事でのミスは確実に減りました。何より、『物忘れしても仕方ない』と自分を許せるようになったことが大きいです。焦りがなくなると、かえって思い出しやすくなるんですね」
現在は、ToDoリストの活用と運動習慣を継続中。「更年期の物忘れは一時的なものだと知って、本当に安心しました。同じ悩みを持つ同世代の女性に『大丈夫だよ』と伝えたいです」
【体験談】Tさん(50歳・銀行パート)の場合
症状
銀行でパート勤務をしているTさんは、49歳頃から急激に物忘れが増えました。「お客様の口座番号を聞いてもすぐに忘れてしまったり、処理手順を度忘れしたり。数字を扱う仕事なので、本当に困りました」
更年期特有のホットフラッシュや不眠も重なり、「朝起きても疲れが取れず、頭がボーッとしている状態が続いていました」
最初に試したこと
最初は記憶力サプリメントを色々試しましたが、効果は感じられませんでした。「レシチンとかDHAとか、評判の良いものは一通り試しました。でも、根本的な原因が更年期だとわからなかったので、的外れだったんですね」
転機となったのは
健康診断で相談したところ、更年期の可能性を指摘されました。「物忘れが更年期症状の一つだなんて、全く知りませんでした。てっきり認知症の始まりかと不安でしたが、医師から『自分で物忘れを自覚できているうちは大丈夫』と言われて安心しました」
Tさんが実践したのは、睡眠の質の改善でした。「まず寝室の環境を整えました。遮光カーテンにして、エアコンの温度も一定に。寝る前のスマホも止めて、代わりにラベンダーのアロマを焚くようにしました」
6ヶ月後の変化
「睡眠の質が上がると、日中の頭の働きが全然違います。以前のようなひどい物忘れはなくなりました。仕事でも『最近調子良さそうね』と言われるようになりました」
現在は、週2回のヨガと規則正しい睡眠を継続。「更年期は誰もが通る道。物忘れも含めて、上手に付き合っていく方法を見つけることが大切だと実感しています」
更年期の物忘れが起こる科学的メカニズム
エストロゲンと脳機能の深い関係
エストロゲンは単なる女性ホルモンではありません。脳内では以下のような重要な働きをしています:
- 神経伝達物質の調整: セロトニンなどの分泌を促進
- 脳血流のサポート: 血管を拡張し、脳への酸素供給を増加
- 神経細胞の保護: 酸化ストレスから脳細胞を守る
- 記憶中枢への作用: 海馬や扁桃体の機能をサポート
更年期にエストロゲンが急激に変動すると、これらの機能が一時的に低下し、物忘れが起こりやすくなるのです。
認知症との決定的な違い
多くの女性が心配する「これって認知症の始まり?」という不安。しかし、更年期の物忘れと認知症には明確な違いがあります:
更年期の物忘れ
- 自分で物忘れを自覚できる
- ヒントがあれば思い出せる
- 日常生活に大きな支障はない
- ホルモンが安定すれば変化が期待できる
認知症
- 物忘れの自覚がない
- 体験したこと自体を忘れる
- 日常生活に支障をきたす
- 進行性で改善しない
今日から始められる物忘れ対策
1. 運動で脳を活性化
運動は脳への血流を増やし、記憶力の向上をサポートします。
おすすめの運動
- 有酸素運動: ウォーキング、水泳、サイクリング(週3〜4回、30〜60分)
- 筋トレ: 軽いウエイトトレーニング(週2回)
- ヨガ・ストレッチ: 自律神経のバランスも整える
「運動なんて時間がない」という方も、まずは1日10分の散歩から始めてみてください。朝の通勤時に一駅歩く、昼休みに会社の周りを歩くなど、無理のない範囲で続けることが大切です。
2. 脳に良い食事を心がける
積極的に摂りたい食品
- 青魚: サバ、イワシ、サンマ(DHA・EPAが豊富)
- 大豆製品: 豆腐、納豆、豆乳(イソフラボンが女性ホルモン様作用)
- ナッツ類: くるみ、アーモンド(ビタミンEが脳を保護)
- 緑黄色野菜: ブロッコリー、ほうれん草(抗酸化作用)
3. 質の良い睡眠を確保
睡眠中に脳は記憶を整理し、定着させます。
睡眠の質を上げるコツ
- 寝室を暗く、静かに、涼しく保つ
- 就寝前のカフェイン・アルコールを控える
- スマホやPCは就寝1時間前にオフ
- 入浴は就寝の1〜2時間前に
4. サプリメントの活用
医学的根拠のあるサプリメントを上手に活用しましょう。
特に注目のサプリメント
- エクオール(10mg/日): 大豆イソフラボンの代謝産物で、エストロゲン様作用
- 価格帯:月3,000〜5,000円程度
- 選び方:「エクオール10mg配合」と明記されているものを選ぶ
- 信頼できるメーカーの製品を薬局・薬剤師に相談して購入
- ビタミンD: 骨だけでなく脳機能にも重要
- オメガ3脂肪酸: 魚が苦手な方はサプリで補給
※サプリメントは医師や薬剤師に相談の上、使用してください。
5. ストレス管理とリラクゼーション
ストレスは記憶力の大敵です。
効果的なストレス解消法
- 深呼吸(4秒吸って8秒で吐く)
- 瞑想やマインドフルネス(1日5分から)
- 趣味の時間を確保する
- 友人との会話を楽しむ
仕事中の物忘れ対策
営業や接客など、メモを取りにくい場面での対策をご紹介します。
即効性のある対処法
- キーワード記憶法: 重要な情報を3つのキーワードに集約して覚える
- スマホの音声メモ: トイレ休憩時などに素早く録音
- 身体を使った記憶術: 指を折って数える、手のひらに書くしぐさをする
- 復唱の習慣: 相手の話を「〜ということですね」と確認しながら記憶に定着
長期的な対策
- 朝のルーティン確立: 起床後すぐに今日の予定を声に出して確認
- 仕事用チェックリスト: よくある業務手順をリスト化してデスクに常備
- 定期的な休憩: 1時間ごとに1分でも深呼吸や軽いストレッチ
家族への理解を得るために
更年期の物忘れについて、家族の理解とサポートは重要です。
家族への説明ポイント
- 医学的な説明: 「女性ホルモンの変化で一時的に起こる症状」と伝える
- 期間の目安: 「2〜3年で落ち着くことが多い」と見通しを示す
- 具体的なサポート依頼:
- 大切な予定は家族カレンダーに記入
- 重要な用事は前日にリマインド
- 物忘れを責めずに優しくフォロー
セラピストからのアドバイス
更年期の物忘れに悩む女性には共通点があります。それは「完璧主義」と「自己否定」です。
「昔はもっとできたのに」「こんなことも忘れるなんて」と自分を責める方が多いのですが、更年期は女性の体が大きく変化する時期。物忘れも含めて、体からのサインとして受け止めることが大切です。
また、物忘れ対策として脳トレや記憶術に頼りがちですが、根本的な変化には全身のケアが必要です。自律神経のバランスを整え、血流をサポートし、質の良い睡眠を取ることで、脳の働きも自然と良くなっていきます。
特に良い変化を感じていただけるのは、定期的な全身のケアです。筋肉の緊張をほぐし、血流をサポートすることで、脳への酸素供給も増加します。
よくある質問
Q: 更年期の物忘れはいつまで続きますか?
A: 個人差はありますが、多くの場合、閉経後2〜3年でホルモンが安定し、物忘れも変化していきます。東京医科歯科大学の寺内教授によると、「エストロゲン値が安定化すれば、うつ状態になりにくくなり、物忘れも落ち着いていく傾向がある」とのことです。適切な対策を取ることで、症状を軽減しながら乗り切ることができます。
Q: ホルモン補充療法(HRT)は物忘れに効果がありますか?
A: HRTは更年期症状全般に対して変化を期待できますが、認知機能への直接的な作用を主目的とした使用は推奨されていません。ただし、ホットフラッシュや不眠などの他の更年期症状に変化があることで、間接的に物忘れが軽減することはあります。HRTには以下のような特徴があります:
メリット
- 更年期症状の総合的な変化
- 骨密度の維持をサポート
- 生活の質の向上を期待
注意点
- 乳がんリスクの若干の上昇(長期使用時)
- 血栓症リスク(喫煙者は特に注意)
- 定期的な検診が必要
HRTを検討する場合は、必ず婦人科医に相談し、個人のリスクと利益を総合的に判断してもらってください。
Q: 物忘れがひどくて仕事に支障が出ています。どうすればいいですか?
A: まず、更年期専門外来や婦人科を受診することをお勧めします。また、職場でできる対策として、ToDoリストの活用、スマホのリマインダー機能、重要事項の見える化などがあります。可能であれば、信頼できる上司や同僚に状況を説明し、理解を得ることも大切です。多くの企業で更年期への理解が進んでいます。
Q: 認知症との見分け方を教えてください。
A: 最も重要なポイントは「自覚の有無」です。「最近物忘れがひどくて…」と自分で気づいている場合は、更年期の症状である可能性が高いです。一方、家族から指摘されても本人に自覚がない、同じ話を何度も繰り返す、時間や場所がわからなくなるなどの症状がある場合は、専門医の診断を受けることをお勧めします。
Q: サプリメントはどれを選べばいいですか?
A: エビデンスがあるのはエクオール(10mg/日)です。大豆イソフラボンの代謝産物で、更年期症状全般に効果が期待できます。ただし、エクオールを体内で産生できる人は日本人の約50%なので、サプリメントでの摂取が効率的です。その他、DHA・EPA、ビタミンDなども推奨されています。必ず信頼できるメーカーの製品を選び、医師や薬剤師に相談してください。
まとめ
更年期の物忘れは、エストロゲンの急激な変動による一時的な症状です。認知症とは異なり、適切な対策により変化が期待できます。
大切なのは、自分を責めずに、体の変化を受け入れること。そして、運動、食事、睡眠、ストレス管理など、トータルでケアしていくことです。
「もう年だから」と諦める必要はありません。更年期は人生の新しいステージの始まり。この時期を上手に乗り切ることで、その後の人生をより豊かに過ごすことができます。
一人で悩まず、必要に応じて専門家のサポートを受けながら、自分に合った対策を見つけていきましょう。