香りで自律神経は整うのか|更年期のゆらぎに、香りができることとできないこと

香りで自律神経は整うのか|更年期のゆらぎに、香りができることとできないこと

寝つけない夜が続いて、アロマを買ってみた。あるいは、買おうか迷っている。そういう方に向けて書いています。

検索すると「ラベンダーは自律神経を整える」「クラリセージはホルモンバランスに働きかける」といった説明が並びます。期待するのは自然なことです。ただ、そこに書かれていないことも、いくつかあります。

この記事では、今夜すぐできる使い方から先にお伝えします。そのあとで、香りに何ができて何ができないのかを、正直に整理します。

道具がなくても、今夜できること

ディフューザーがなくても大丈夫です。日本アロマ環境協会が案内している方法は、拍子抜けするほど簡単です。

ティッシュやハンカチに1〜2滴たらして、枕元に置く。それだけです(アロマテラピーの楽しみ方)。

コットンでもかまいません。器具はいりません。枕に直接たらすのは避けてください。精油によっては、シミになることがあります。

置く場所は、顔のすぐ横ではなく、少し離した枕元で十分です。香りは、思っているより強く届きます。

そして、一晩中つけっぱなしにする必要はありません。理由は2つあります。

1つは、同じにおいを嗅ぎ続けると、感じにくくなっていくこと。もう1つは、そもそも眠ってしまうと、においはほとんど届かなくなることです。深く眠った状態でにおいへの反応を調べた研究では、反応がまったく見られませんでした。同じ条件で音を鳴らすと、多くの人が反応します。「においの警報器は人間には使えない」というのが、この研究の結論でした。ただし、参加者6人という小さな実験ではあります。

つまり香りは、眠りに落ちるまでの時間に働いてもらうものです。

夜中に目が覚めてしまったときは

ここは正直にお伝えします。香りは、中途覚醒そのものを止める力を持っていません。

ただ、目が覚めたあと「また眠れないかもしれない」と焦る時間を、少しだけ和らげる使い方はできます。枕元のティッシュをもう一度引き寄せて、ゆっくり息を吸う。それだけです。

眠ろうと力むほど眠れなくなるのは、多くの方が経験されています。香りは、その力みから注意をそらす手すりのようなものだと考えてください。

その瓶が「精油」かどうかは、ラベルで分かる

買ったものが本当に精油なのか、確かめる方法があります。

ラベルに「学名」「抽出部位」「抽出方法」が書かれているかを見てください。この3つが揃っていれば、まず信頼できます。

  • 学名:ラベンダーなら Lavandula angustifolia のような表記
  • 抽出部位:花、葉、果皮など。同じ植物でも部位が違えば中身が変わります
  • 抽出方法:水蒸気蒸留法、圧搾法など

日本アロマ環境協会は、この3つを含む8項目を表示している製品を認定しています(表示基準適合精油認定制度)。あわせて、光や熱で成分が変わるため、遮光の瓶に入ったものをとも案内しています。

なぜここまで言うかというと、実際に起きた事故があるからです。

日本小児科学会が報告した事例に、1歳4か月の子どもが、棒を挿して香らせるタイプの芳香剤の液を誤って気管に入れてしまい、肺炎で入院した例があります。学会の解説には、はっとする一文が添えられていました。この製品の液体に、精油は入っていなかったというのです。主な成分は、塗料や接着剤にも使われる溶剤と、香料でした(芳香剤の液による肺炎の事例)。

学会は「精油とされている安価なものの中には精油が含有されておらず、合成香料が使用されていることもある」と指摘しています。100円ショップなどで手軽に買えるものも増えている、という言及もありました。

「アロマオイル」という名前で売られていても、中身が植物から採ったものとは限らない。ラベルを見る習慣だけで、避けられることがかなりあります。

「香りで自律神経が整う」は、どこまで本当か

ここからは、少し込み入った話になります。今夜の使い方だけ知りたい方は、この項は飛ばしていただいてかまいません。

まず、よく見かける「嗅覚だけが脳に直接届く」という説明について。半分は正しく、半分は言いすぎです。においの情報が、感情や記憶に関わる領域と早い段階でつながるのは事実です。ただ、その先には別の中継地点を通る経路もあり、「まったく通らない」わけではありません(嗅覚と脳の経路について)。

そして大事なのは、脳のつながり方は、効果があることの証明ではないということです。近道があるから必ず自律神経が整う、とは言えません。

では、実際に効くのでしょうか。ここで研究が食い違います。

動物では、はっきりした結果が出ています。ラベンダーの主成分のにおいを嗅がせたマウスで、不安そうな行動が減りました。嗅覚を働かなくすると、その変化は起きません(リナロールのにおいによる作用。オスのマウスだけを使った実験です)。

ところが人を対象にすると、話が難しくなります。理由はシンプルで、香りは隠せないからです。

薬なら、見た目が同じ偽物を用意して比べられます。でも香りは、嗅いだ瞬間に本人が分かってしまう。実際、「これはリラックスできる香りです」と伝えられたかどうかだけで結果が変わった研究もあります(期待が結果を左右した研究)。

これまでの研究をまとめた報告でも、更年期の症状が和らぐ方向の結果は出ています。ただし報告した研究者自身が、確からしさは高くないと評価を添えています(更年期症状とアロマに関する総括)。

結論はこうなります。「効くと証明された」ではなく、「試す価値はあるが、確実ではない」

ただし、これは香りを使わない理由にはなりません。理由がどうであれ、眠る前に落ち着けたのなら、それは意味のある変化です

ほてりそのものには、期待をかけすぎない

一つだけ、はっきりさせておきたいことがあります。

北米の閉経学会が2023年にまとめた指針では、薬を使わない方法のうち、ほてりや発汗に勧められているのは、考え方のくせを整える心理療法と、医療機関で行う催眠療法の2つでした。ヨガや瞑想、サプリメントは、ほてりへの対処としては勧められていません。アロマについては、この指針に言及そのものがありません(北米閉経学会の指針)。

これは「香りを楽しんではいけない」という意味ではなく、ほてりを減らす方法として勧められるだけの根拠がないということです。

ほてりや発汗そのものがつらいときは、婦人科で相談できる選択肢があります。薬を含めれば、方法はいくつもあります。

夜のほてりや寝汗については更年期の寝汗が夏にひどくなる理由で、イライラや不眠との向き合い方については更年期のイライラ・不眠を5分で和らげる方法で、それぞれ詳しくお伝えしています。

香りの感じ方は、この時期に変わることがある

「昔は好きだった香りが、最近しっくりこない」。そう感じている方は、気のせいではないかもしれません。

女性の年代別の調査では、においの不調を自覚する人の割合が、閉経前より閉経後で多いという結果が出ています(女性ホルモンとにおいの感じ方)。ある時点を切り取って比べた調査なので、閉経が原因だと確かめられたわけではありません。加齢の影響も重なります。

それでも、以前使っていた香りが合わなくなったとしても、あなたの感覚がおかしくなったわけではない、ということは言えます。

昔の好みに引きずられず、今の自分が心地よいと感じるものを選び直してみてください。「この症状にはこの香り」という一覧表より、今日の自分の鼻のほうが、はるかにあてになります。

なお、「好みが変わった」のではなく「においそのものが薄い、分からない」という場合は、話が別です。耳鼻咽喉科の領域で、検査も治療もあります。詳しくは最後の項でお伝えします。

寝室で使うときに、気をつけたいこと

長くならないよう、要点だけ。

肌に原液をつけない。消費者庁の消費者安全調査委員会は、精油を皮膚に塗ったあとに皮膚障害を起こした事故が散見されるとして注意を呼びかけています。塗る場合は必ず薄めること、肌が弱い方はさらに低い濃度から試すこと、そして症状が軽いと思っても悪化することがあるため迷わず受診すること(エッセンシャルオイルのトリセツ)。

塗った日は日光を避ける。ベルガモット、グレープフルーツ、レモンなどには、紫外線に反応して肌に炎症を起こす成分を含むものがあります。

量を控えたほうがいい方。日本アロマ環境協会は、3歳未満には香りを漂わせる使い方のみとし、3歳以上でも大人の10分の1程度から、ご高齢の方は基準の半分以下からと案内しています。治療中や薬を飲んでいる方は、自己判断せず医療機関にご相談ください(安全に楽しむために)。

猫がいるご家庭は慎重に。猫は精油の成分を分解する酵素が少なく、中毒の危険が高いとされています。直接つけないこと、香らせる部屋に入れないことが、獣医学の手引きで挙げられています(動物の精油中毒)。

同居する人への配慮も。香りの感じ方には個人差があります。頭痛や吐き気を訴える方がいることについて、消費者庁など5つの省庁が連名で配慮を呼びかけています。自分が心地よい香りが、家族にとってもそうとは限りません。

当サロンが、施術に香りを使わない理由

正直にお伝えすると、当サロンでは施術に香りを使っていません。

理由は単純で、香りは好みが分かれるからです

施術は、狭い空間で、長い時間、体をゆだねていただく場です。そこに一律の香りを置くと、心地よく感じる方がいる一方で、落ち着かない方も必ずいらっしゃいます。そして香りが苦手な方ほど、施術中にそれを言い出しにくい。休みに来たはずの場所で、我慢の時間を過ごさせてしまうことになります。

だからこの記事も、「この香りを使いましょう」とは書きません。香りを選ぶ主導権は、使うご本人にあります。当サロンからお伝えできるのは、選ぶときに知っておくと損をしない情報までです。

眠りにつくきっかけとして、音や触れる刺激を使う方法もあります。香りが合わないと感じる方は、音を使う方法体に触れる刺激を使う方法も選択肢になります。いずれも、香りと同じく「確実に効く」と言えるものではありませんが、合う方には合います。

香りに任せず、受診を考えたほうがいいとき

まず、胸の圧迫感や痛み、強い息苦しさ、失神があるときは、予約を待たずに救急の相談をしてください。セルフケアで様子を見る状態ではありません。

次のような場合は、早めに医療機関へ。

  • ほてりや不眠が、仕事や家事、運転など日中の生活に支障を出している
  • 症状が長く続く、または急に悪くなった
  • 大きないびきを指摘される、睡眠中に呼吸が止まる、朝に頭痛がある
  • 強い落ち込みが続き、何をしても楽しめない
  • 閉経後に、少量でも出血がある
  • 45歳より前に月経が不規則になった、または止まった

「まだ更年期には早い年齢だから」と迷う必要はありません。更年期と似た症状は、甲状腺の病気や貧血、うつなどでも起こります。年齢で決めつけずに調べてもらえるのが、受診の一番の利点です。まずは婦人科や内科へ。必要に応じて専門の科を紹介してもらえます。

そして、においが分かりにくい状態が続いているなら、耳鼻咽喉科へ。日本鼻科学会のガイドラインには、4種類の香りを1日2回、3か月ほど嗅ぎ続ける嗅覚刺激療法という方法があり、風邪のあとなどににおいが分かりにくくなった方に対して強く勧められています。高価な精油である必要はないとも書かれています(嗅覚障害診療ガイドライン)。ただし自己流で始める前に、原因を調べてもらってください。

眠れない状態が慢性的に続いている場合も、睡眠の専門的な治療という選択肢があります。不眠のタイプごとの見分け方については40代女性の不眠症4つのタイプと改善法もご覧ください。

心地よいと感じられるなら、香りは眠る前の気持ちを切り替える習慣として使えます。ただ、抱えているものが重いときに、それを一人で引き受けさせるものではありません。

よくある質問(Q&A)

Q. ディフューザーを持っていません。それでも使えますか?

使えます。ティッシュやハンカチ、コットンに1〜2滴たらして枕元に置くだけで十分です。器具は必要ありません。枕に直接たらすと、精油によってはシミになることがあるので避けてください。

Q. 一晩中つけておいたほうがいいですか?

その必要はありません。同じにおいは嗅ぎ続けるうちに感じにくくなりますし、深く眠るとにおいはほとんど届かなくなります。眠りに落ちるまでの時間に働いてもらうもの、と考えてください。

Q. 夜中に目が覚めてしまいます。香りで防げますか?

防げません。中途覚醒そのものを止める力は、香りにはありません。ただ、目が覚めたあとに「また眠れないかも」と焦る時間を和らげる使い方はできます。眠れない状態が続くなら、医療機関にご相談ください。

Q. 買ったものが本物の精油か分かりません。

ラベルに「学名」「抽出部位」「抽出方法」が書かれているかを見てください。この3つが揃っていれば、まず信頼できます。日本アロマ環境協会は、これらを含む8項目を表示している製品を認定しています。遮光の瓶に入っているかも一つの目安です。

Q. アロマで更年期のホットフラッシュは治りますか?

治るとは言えません。北米の閉経学会が2023年にまとめた指針には、アロマへの言及そのものがなく、ほてりに勧められる方法としても挙げられていません。心地よいと感じられるなら眠る前の習慣として使えますが、ほてり自体がつらい場合は婦人科でご相談ください。

Q. 研究では効果が証明されているのではないですか?

「証明された」と言える段階ではありません。改善したという報告はありますが、香りは本人に気づかれてしまうため、香りそのものの働きと期待の働きを切り分けられないという弱点があります。報告した研究者自身も、確からしさは高くないと評価を添えています。

Q. 効果が期待によるものなら、使う意味はないのでしょうか?

そんなことはありません。理由がどうであれ、眠る前に落ち着けたのなら、それは意味のある変化です。ただ「効くはずだから続けなければ」と義務になると本末転倒ですので、心地よいと感じる範囲で使ってください。

Q. 昔好きだった香りが、最近しっくりきません。

においの感じ方は、この時期に揺れることがあります。閉経後はにおいの不調を自覚する方が増えるという調査もあります。ただし閉経が原因だと確かめられたわけではなく、加齢の影響も重なります。以前の好みにこだわらず、今心地よいと感じるものを選び直してみてください。

Q. においそのものが分かりにくくなった気がします。

好みが変わったのではなく「においが薄い、分からない」という場合は、耳鼻咽喉科にご相談ください。日本鼻科学会のガイドラインには、4種類の香りを1日2回、3か月ほど嗅ぎ続ける嗅覚刺激療法という方法があり、風邪のあとなどににおいが分かりにくくなった方に強く勧められています。ただし自己流で始める前に、原因を調べてもらうことをおすすめします。

Q. 猫を飼っています。使えますか?

慎重な判断が必要です。猫は精油の成分を分解する酵素が少なく、中毒の危険が高いとされています。獣医学の手引きでは、精油を直接つけないこと、香らせる部屋に猫を入れないことが挙げられています。よだれ、嘔吐、ふらつきなどが見られたら使用をやめ、製品を持って獣医師にご相談ください。

Q. サロンの施術で自律神経は整いますか?

施術は、自律神経の不調や更年期障害を治すものではありません。当サロンでできるのは、深いリラックスを通じて休みやすい状態を支えることまでです。症状がつらいときは、医療機関での相談が基本になります。