靴下を重ねても、布団に入って30分たっても、足先だけが冷たい。なのに顔と首はほてっていて、窓を少し開けたくなる。足元だけが眠れていないような感じで、朝までに何度か目が覚める。
靴下、レッグウォーマー、湯たんぽ、足湯。ひととおり試して、どれも続かなかったという方も多いのではないでしょうか。
この「上と下がちぐはぐ」という状態は、漢方では上熱下寒、一般には冷えのぼせと呼ばれます。医学的な診断名ではなく、この呼び名がついたからといって原因まで決まるわけではありません。
やっかいなのは、素直な対策ほど裏目に出やすいこと。足が冷たいのだから足を温める。ごく自然な発想ですが、この順番だと手間をかけたわりに、明け方にはまた冷たくなっていることがあります。
この記事でお伝えするのは、温める順番を入れ替えるという一点だけです。湯温や入浴時間といった基本は別の記事にまとめてありますので、そこへのリンクを置きながら進めます。
冷たいのは体ではなく、末端だけ
冷えを訴える女性とそうでない女性を、同じ涼しい部屋に入れて比べた研究があります。皮膚全体の温度の下がり方は、どちらのグループもほぼ同じでした。体の中心の温度も、両方とも保たれています。はっきり差が出たのは指先で、冷えを訴える人のほうが大きく下がりました。
皮膚の温度で見るかぎり、冷えているのは体全体ではなく、末端です。そこだけが先に切り離されている、という形になっています。ただし、この研究では冷えを訴える人のほうが体全体の寒さの不快感も強く出ていました。測って冷たいのは末端でも、つらさは全身で感じているわけです。
しかも切り離され方には場所のクセがあります。冷えを訴える人では、ふくらはぎよりも足の甲のほうが、血管を縮める信号に強く反応することが確かめられました。「ふくらはぎは温かいのに、足先だけ氷のよう」というあの感覚には、体の側の理由があるということです。
なぜ秋に目立つのか:冷房の夏から、気温が落ちる秋へ
さきほどの研究で使われた部屋の温度は23.5度でした。夏に冷房の効いた室内と、そう変わりません。冷えを訴える人の指先が大きく下がったのは、その温度でのことです。夏のあいだ冷房の効いた室内で長く過ごせば、手足の血管が縮んでいる時間はそれだけ長くなります。
そこへ秋の気温低下が重なります。名古屋では、月の平均気温が9月から10月にかけて6度ほど下がるのが平年の姿です。ただ、その下がり方は年によってかなり違います。
今年もそうでした。9月25日の平均気温は25.0度、翌26日は21.1度。一日で4度近く落ちています。昨年の10月も、下旬にかかる3日間で最高気温が10度近く下がりました。ゆるやかに下がるなら体もついていきますが、こう急だと、体は末梢を締めて中心を守るほうに振れます。夏に冷えていた足元に、締める刺激が上乗せされる。これが「去年の秋より冷たい気がする」という感覚の背景にあることがあります。
熱は足りている:問題は、配り先が上に偏っていること
ここからが、この記事の本題です。
冷え症を自律神経の側から整理した報告では、冷え症がひとつの状態ではなく、体の表面の温度の分かれ方によっていくつかのタイプに整理されています。そのうち、足や下半身が冷えるタイプが「下半身型」です。このタイプは上半身がのぼせる場合があり、それが漢方でいう上熱下寒にあたります。
ここで示されている特徴が三つあります。
ひとつは、下半身型では足元の血管を締める働きが強いこと。ここまでは想像どおりだと思います。
ふたつめが大事なところで、下半身型では、体にたくわえられている熱の量も、体から逃がしている熱の量も、健常な人と変わらなかったという結果です。ほかのタイプでは熱そのものが目減りしていたのに対して、下半身型だけは差がありませんでした。下腹部の深部の温度はむしろ高いほうに出ています。
みっつめは意外なほうで、顔のほてりをともなう下半身型では、体の中心側の自律神経は、むしろ休む側に傾いていました。同じ下半身型でも、のぼせをともなわない場合は逆に緊張側だったのに対して、です。
「冷えるのは、自分がストレスをためて緊張しているからだ」。そう考えて、リラックスを増やす方向にがんばっている方は多くいらっしゃいます。けれど、顔がほてるタイプについては、中心側が張りつめているという説明はあてはまりにくいことになります。全身のリラックスを積み増しても手応えが薄かったのは、そのあたりに理由がありそうです。
ただし、ここから「では足元だけを緩めればいい」とまでは言えません。この報告は、足元を狙ったケアと全身のリラックスを比べたものではないからです。
下が締まると、熱の捨て場所がなくなる
日本プライマリ・ケア連合学会の解説では、下半身の血管が縮みすぎて放熱が妨げられた結果、代わりに顔や頭の表面の血管が広がって放熱しようとするという見方が紹介されています。上と下で、血管を締めたり広げたりする働き方がちぐはぐになっている状態です。
そう考えると、上熱下寒は熱が足りない状態ではありません。熱はある。配り先が上に偏っていて、下まで回っていない。総量ではなく、配分の問題です。だとすれば、やるべきことは「熱を足す」ではなく「配れるようにする」になります。
更年期のほてりとは、分けて考える
ひとつ、混同しやすい点があります。
更年期のホットフラッシュは、調べられた部位では指も含めて広く血管が広がり、一気に熱を捨てている状態です。ほてっている最中は、末梢も締まっていません。
ですから「顔がほてる」と「足先が冷たい」が同時に続いているなら、ほてりの発作のただ中を見ているのではなく、発作が起きていない平常時の、血管の縮みやすさを見ている可能性があります。ただし体感だけで見分けられるものではないので、切り分けの手がかりとして持っておく程度にしてください。ホットフラッシュそのものへの向き合い方は更年期の寝汗が夏にひどくなる理由にまとめてあります。
温めても戻らないのは、なぜか
足を温めれば戻る、とはかぎりません。ここが、この体質のいちばん扱いにくいところです。
さきほどの報告では、足の指を氷水につけたあとの回復も調べられています。下半身型では、冷やしたあと元に戻っていく途中でも、足の指で血管を締める働きが高まったままでした。冷えている最中だけでなく、戻ろうとしている最中も締め続けている、ということです。
これは冷え症全般に見られる傾向でもあります。足を冷やしたあと元の温度に戻るまでの速さを測った研究でも、冷えを訴える人のほうが戻りが遅いことが確かめられました。
戻りが遅い、という性質があるわけです。ここから先は推測になりますが、温めるのをやめたあとの持ちについても、同じように不利に働くことが考えられます。湯たんぽを入れた足元が明け方には冷えている。この繰り返しに心当たりがあるなら、グッズを増やすより順番を疑ってみる価値はあります。
秋の夜、温める順番:足はいちばん最後
四つのステップに分けます。順番そのものが中身です。
先にお断りしておくと、この順番どおりにやれば効く、と確かめた研究はありません。一つひとつの中身には根拠がありますが、並べ方はここまでの話から組み立てたものです。そのつもりで、無理のない範囲で試してみてください。
1. 湯船に入る前に、座って5分
温めるより先に、ゆるめます。順番として、湯船に入る前です。
椅子でも床でも大丈夫です。座って、吐く息を吸う息より長くします。4秒吸って6秒吐くのリズムで5分。
狙いは、気分を落ち着けることではなく末梢を開くほうです。ゆっくりした呼吸をすると手足の皮膚の温度が上がる方向に動くことが報告されています。これは座って行った実験での結果で、湯船の中で同じことが起きるかは調べられていません。だから湯船ではなく、入る前に座って行います。
長さについては、5分でも20分でも心拍の指標に差が出なかったという報告があります。冷えへの効き方まで5分で足りると確かめられたわけではないものの、長さを増やすほど効くという関係も出ていません。5分から始めてください。
2. 温めるのは、そのあと
湯温と入浴時間は入浴温度と自律神経の記事にまとめてあります。そちらの目安(38〜40度、長くても15分以内)を守ってください。のぼせやすい方はとくに、時間を延ばさないほうが安全です。気分が悪くなったらすぐに上がり、浴槽から立つときはゆっくり動いてください。
そのうえで、この記事で足したいのは一点だけ。上がる時刻です。
就寝の1〜2時間前に済ませておくと、寝つきが早くなることが分かっています。10分程度の入浴でも差が出ています。ただし研究の数はまだ少ないので、分単位で合わせなくて大丈夫です。「布団に入る直前ではなく、1時間以上前に上がっておく」。その粒度で足ります。
3. 上のほてりが引くまで、布団に入らない
四つのうち、いちばん飛ばされやすいのがここです。
湯上がりは上半身がほてっています。その状態で横になると、上に熱がこもったまま、足だけが取り残されます。顔と首の汗が引いて、首すじがさらっとするまで待ってから布団に入ってください。
待つ場所は暖かいところにしてください。濡れた体のまま寒い脱衣所にいると、この記事で書いてきたとおりの流れで、末梢から締まっていきます。足元は靴下などで冷やさずに、上の熱が引くのを待ちます。
ステップ2とステップ3は、どちらも上にこもった熱を抜いてから横になるための手順ですが、測っているものが違います。ステップ2は時計、ステップ3は体感です。時間の取りにくい日は、ステップ3だけでも守ってください。首すじがさらっとしてきたら、上の熱が抜けてきたころです。
4. 足は、温めるのではなく冷やさない
最後が足です。順番として最後、という意味でもあります。
使う道具は、これまで試してきたものと同じもので大丈夫です。変わるのは目的と、置く順番です。温めるために使うのではなく、逃がす邪魔をしないために使います。
足浴については、正直にお伝えしておきたい研究があります。50代後半以上の方を対象に就寝前の足浴を調べた試験では、足の温度は確かに上がって保たれたのに、睡眠の検査値も本人の実感も変わりませんでした。少なくともこの試験では、足を温めることがそのまま眠りの深さにはつながっていません。
では足元は放っておいていいのかというと、そこは違います。眠りに入るとき、体は手足から熱を逃がします。足元に必要なのは、熱を足すことより、逃がす邪魔をしないことです。
- 寝室が寒いなら、靴下やレッグウォーマーで「冷やさない」。温めるためではなく、冷やさないために履く
- 締めつけの強いものは避ける。暑くなったら自分で脱げる状態にしておく
- 湯たんぽを使うなら、足に当て続けるより、寝る前に布団を温めておいて入るときに出すほうが、放熱を妨げにくくなります
湯船に入れない日は
働いていると、湯船に浸かれない日のほうが多い週もあります。その場合はステップ1と3だけ残してください。浴室に入る前に座って5分、吐く息を長くする。そして浴室を出たあと、首すじの汗が引くまで布団に入らない。上にこもった熱を抜いてから横になるという流れは、シャワーでも同じように作れます。
サロンでのアプローチ:足からは始めない
当サロンの施術では、冷えのご相談をいただいたときも足先から入りません。どのコースも背面から、つまり体の後ろ側から始めます。
末梢が締まっているとき、締める働きそのものは末端だけで完結していません。ですから施術も、体の後ろ側から入る組み立てにしています。
これは当サロンの施術の順序であって、背中から始めれば足先の冷えが解決する、という意味ではありません。施術で冷えの体質そのものが変わるわけでもありません。できるのは、この記事の順番でいう一番目、「ゆるめる」を外から手伝うところまでです。二番目以降は、ご自宅の湯船で積み上げていただくことになります。
セラピストの手を通して流す微弱電流は、体に流れている生体電流と近い強さの、ごく弱い電流です。強い圧で押し込む手技とは負荷のかかり方が違うため、こわばりが強い方でも力みが入りにくくなります。仕組みについてはストレス性不眠への微弱電流アプローチで解説しています。
冷えやむくみが気になる方に向けたオプションとして、仙骨まわりに弱い電気刺激をゆっくり流す仙骨フレックス(本格ケアオプション・20分)もご用意しています。感じ方には個人差があり、当サロンのケアは医療行為ではありません。
まとめ:足を温めるのは、いちばん最後
- 上熱下寒は、熱が足りない状態ではなく、配り先が上に偏っている状態
- 下半身型では、たくわえている熱の量も、逃がしている熱の量も、健常な人と変わらなかった
- 順番は、ゆるめる → 温める → ほてりを引かせる → 足を冷やさない
- 足から始めても、その場の温かさで終わりやすい(ここは推測を含みます)
今夜から変えるのは一つで足ります。湯船に入る前、座って5分、吐く息を長くする。順番の一番目を足すだけで、残りはこれまでどおりで大丈夫です。
2週間ほど続けて、明け方の足先の冷たさが変わるかどうかを見てみてください。これはセラピストとしての目安で、確かめられた期間ではありません。変わらないようなら、順番以外のところに理由がありそうですので、内科や婦人科にご相談ください。
冷えの感じ方には個人差がありますし、お住まいの地域や住まいの断熱によっても変わります。急に強くなった冷えや、片側だけの冷え、しびれをともなう場合は、セルフケアの前に医療機関にご相談ください。
よくある質問(Q&A)
Q:足先だけ冷たいのに顔がほてります。更年期でしょうか?
更年期に自律神経の体温調節が揺らぎやすくなるのは確かですが、この組み合わせだけで更年期と決まるわけではありません。更年期のホットフラッシュは、ほてっている最中は手足の血管も広がっていることが確認されています。顔のほてりと足先の冷たさが「同時に、日常的に」続いているなら、ほてりの発作そのものより、平常時の末梢の縮みやすさを見ている可能性があります。ただし体感だけで見分けられるものではありません。月経の変化や強い発汗をともなう場合は、婦人科にご相談ください。
Q:冷えるのはストレスのせいだと思って、リラックスを心がけてきました。間違いでしょうか?
リラックス自体は役に立ちます。ただ、冷え症のタイプ別に自律神経を調べた報告では、下半身が冷えて上半身がほてるタイプのうち、のぼせをともなう人は、体の中心側の自律神経がむしろ休む側に傾いていました。「緊張しているから冷える」という説明は、このタイプにはあてはまりにくいことになります。全身のリラックスを積み増しても手応えが薄かったのは、そのあたりに理由がありそうです。ではどこを狙えばよいかについては、比べた研究がないため、はっきりしたことは言えません。
Q:靴下を履いて寝るのは良くないと聞きました。本当ですか?
寝室が寒いなら、履いてください。気をつけるのは締めつけの強さと、脱げるかどうかだけです。眠りに入るとき体は足から熱を逃がすため、厚手のものできつく覆い続けると放熱の邪魔になることがあります。暑くなったら自分で脱げる状態にしておくのが現実的です。
Q:足湯はやっても意味がないのでしょうか?
冷えた足を出発点に戻す手段としては有効です。足浴で足の温度が上がること自体は、繰り返し確認されています。ただ、50代後半以上の方を対象にした試験では、足は温まったのに睡眠の検査値も本人の実感も変わりませんでした。この年代・この条件での結果ではありますが、「足湯をすれば眠りが深くなる」とまでは言いにくいところです。気持ちよく感じるなら続けてください。
Q:お風呂の時間が取れない日は、どうすればいいですか?
順番の一番目と三番目だけ残してください。浴室に入る前に座って5分、吐く息を長くする。そして浴室を出たあと、首すじの汗が引くまで布団に入らない。湯船ほどは体が温まりきらないものの、上にこもった熱を抜いてから横になるという流れは同じように作れます。
Q:呼吸は何分やればいいですか?
5分を目安にしてください。5分と20分で心拍の指標に差が出なかったという報告がありますので、長くやるほど効くというものではないようです。回数を数えるより、吐く時間が吸う時間より長いことのほうが大事です。苦しくなるようなら、4秒吸って6秒吐くを3秒吸って5秒吐くに短くしてください。
Q:呼吸法を続ければ、のぼせは治まりますか?
のぼせやホットフラッシュそのものを減らす効果は、確認されていません。200人規模で調べた試験では、呼吸法のグループと対照のグループに差が出ませんでした。機器で呼吸を誘導した試験にいたっては、呼吸法のグループより、比較用に音楽を聴いたグループのほうがホットフラッシュが減っています。この記事で呼吸をおすすめしているのは、のぼせを治すためではなく、温める前に末梢が開きやすい状態をつくるためです。目的を分けて考えてください。
Q:秋になると急に足先の冷えが気になります。夏は平気だったのに、なぜでしょう?
夏のあいだ冷房の効いた室内で長く過ごすと、手足の血管は縮んだ時間が長くなります。そこへ秋の気温低下が重なると、締める方向の刺激が上乗せされます。とくに気温の下がり方が急な年は、体が追いつきにくくなります。日中の冷えを持ち越さない工夫については冷房病ケアの5習慣も参考にしてください。
Q:温活グッズをいろいろ試しましたが、どれも続きません。
道具を増やす方向では、この体質は扱いにくいところがあります。冷え症の人は、温かい部屋に移っても末梢の血流の戻りが遅いことが分かっています。外から熱をあてても、やめたとたんに戻ってしまうためです。まず順番を変えて、それでも足りない分を道具で補うと考えると、持ち物は減らせます。
Q:どのくらい続ければ変化が分かりますか?
目安として2週間です。ただしこれはセラピストとしての目安で、確かめられた期間ではありません。判断の材料は、寝る前の足の温かさではなく、明け方の足先の冷たさにしてください。寝る前は道具で温まっていても、朝まで保てているかどうかのほうが手がかりになります。変わらないようなら、順番以外のところに理由がありそうですので、内科や婦人科にご相談ください。